第1話 裾踏姫

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ほとんどの者は祭気分を盛り上げるために着ているのだろうが、俺と同じようにソワソワと落ち着かず、やたらと後ろを気にしている者もいた。 縁日を途中まで歩いたところで俺は足を止めて低く唸った。参加客の浴衣は年々丈が長くなり、柄も派手になっていく傾向にあったが、今回は飛躍の度合いが大きかったのだ。 長いものは裾を数メートルも引きずっており、柄に至っては女性が思わず踏みたくなるような可愛いらしいキャラクターものなどがあった。 今回はライバル達もかなり創意工夫をこらしたようである。 敵ながらやるものだと俺が感心していると、突然後ろから「あー!」という叫び声がした。 俺が驚いて振り返ると、裾の脇に一人の見知らぬ女の子が立っていた。 歳は俺より少し下ぐらい。長い黒髪を涼しげに結い上げ、朱色の浴衣を着ていた。彼女は涙のたまった目で俺を睨み付け、地面を指差した。
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