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彼女の指差す先を見ると、地面に広がる青い裾の上にわずかな土の汚れがあった。
これが一体どうしたというのだろうか。俺は分からず彼女に視線を戻した。
「わからないの!?私の草履の跡よ!」
「え?」
「踏んじゃったの!あんたが急に止まるからいけないのよ!」
「な、なんだって!」
俺は思わず叫んだ。
周りの人々がこちらを見たが、俺は興奮していたので少しも気にならなかった。縁日に来てからわずか五分、いきなり網に魚がかかったわけである。それもかなりの美人なので、大魚といってよい。
さらに、彼女の方から踏んだことを申告してきたということは、かなり脈ありとみてよいだろう。
報われた。俺はその想いで涙が出そうになった。今まで浴衣に費やした金、祭のために潰した貴重な休日、それがまさにこの瞬間報われたのだ。
しかし、俺が有頂天でいられたのも彼女に胸ぐらを掴まれるまでであった。
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