5人が本棚に入れています
本棚に追加
隣で眠っていた彼が目を醒ました。
……私はといえば、眠ろうともせずに朝を迎えた訳だけれど。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「ん……環境変わるといつもこうだから」
「そっか。……朝焼け綺麗だね」
「そうだねー……朝焼けとか何年振りだろ」
「だよねぇー……普通の人はそんなにしょっちゅう見るもんじゃないから」
今までにもして来たように、窓を開けて美しい空を仰ぐ。
普段より少し強いくらいの風が心地良かった。風の強さに比例した速さで何ともいえない色をした雲が流れていく。
その雲はあまりにも立体的で、なんだか呑み込まれてしまいたいような気がした。
「こういうの見てるとさ……あの雲に呑まれて、ふわふわと流されながらいつまでも眠っていたい……とか思わない……?」
「ん……確かに」
窓枠に肘をついてぼうっと空を見つめる。
雲の向こうには太陽が昇って来ている。
刻一刻と変わって行く空の色を的確に表現する言葉を、私は持ち合わせていなかった。
……そんな事実に、少しだけもどかしさを募らせた。
……気が付けば、隣に彼がいた。
何をするでもなく、日が昇って行く空を見つめている彼。
その瞳は少年のように澄んでいて──その上、大人の心にしか生じないであろう愁いを秘めた、とてもとても美しい瞳であった。
──そう、この世のものとは思えない程に。
きっと彼は今、あの雲の中にいるのであろう。彼はここにいるのに私の隣にはいない──……その事実をとてもとても不思議に思い、寂しさが私の中心を少しだけ締め付けた。
なら、いっそ。
私もあの雲に呑み込まれてしまおうか。
そうすれば彼の隣に行けるのかどうかは私も知らない。けれどもそうしたいと突然思ったのだ。衝動的に、というには激しすぎるけれども、なんとなく、と言ってしまうのは少し投げやりな気もした。
……空を、見つめる。
雲に近付く。
……嗚呼、このまま、永遠に……
最初のコメントを投稿しよう!