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……もう少しで、夜が明けるだろうか。
夜通し彼とメールをしていた。
彼も私も眠れない……寝ようとしない部類の人種だ。
──と言っても、こんな内容を話していれば誰だって眠れないのだろうけど。
別れを、告げた。
好きだった……いや、今でも好きだ。
でも、合わなかった。
私達の中で何かが噛み合わない。
日常の中で感じる何気ない幸福や苦しみ、そんな感覚が噛み合っていなかった。
彼の早過ぎる歩みに、私はついて行けずにいた。
彼はそのことに、気付いていたのだろうか。
弱さを見せ合った。
全て受け容れると契りを交わした。
私は彼の弱さを否定しなかった。
私が認めた私の弱さを彼は否定しなかった。
……そのことが、とてもとても嬉しかった。
しかし気付いてしまった。
受け容れる、ということは、言葉なんていう不確かな物では表すことが出来ないのだ。
愛も同様。生も同様。
言葉だけの脆い繋がりに縋った私達は、お互いの何かに強固な傷を付けた。
私達がしていることは恋愛ではないのかもしれない。
ただ愛されたいと願う自己陶酔家達が肩を寄せているだけなのかもしれない。
それくらい、お互いが自分に酔っていたのだ。
どんな手段を使ってでも私を繋ぎ止めようとする彼。そうして繋がれた鎖を振り払うことが出来ない私。
そうして繋がれることに酷く安心している私。そうして繋がれることで自分に価値があると勘違いする私。
彼も同じようなものであろう。
別れを、告げた。
聞きたくない、と何度も言われた。狂気を感じる程に、何度も、何度も繰り返して。
気付いたら、私はまた繋がれていた。
私達はまたひとつ、お互いを駄目な人間にした。
このままふたりでいれば、私達はそれぞれに破滅へと向かうだけだろう。
……お互いの弱さに付け込んで、しがみついて。そのままでいいと、錯覚する。
そんな蜜のように甘い毒に、酔いしれて、侵されて行く。
そうして私達は、未来を語る資格を亡くした。
空が、白んできた。
山の向こうからだんだんと、赤みを帯びて行く空。
──その空に、目を奪われずにはいられなかった。
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