時をこえて

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何故、だろう? なんで自分はこんな場所にいるのだろう? こんな場所には縁がなかった筈なのに――。 「……棺に死を、土に花を。 『泥土の屍』(でいどのしかばね)」 綺麗な灰色の目の美少年が呪文(ことば)を紡ぐ。 その目に写っているのは空、大地、全てを埋め尽くしているイギョウのカイブツ。 泥が撥ね 波になる。 先ほど紡いだ魔法が効力を発揮する。 簡単に一言に言い表すならば土の大波。 言い換えるならば横に進む土砂崩れ。 しかし、驚くのはその異常……、異常すぎる大きさだ。 ざっと埋め尽くしていたイギョウのカイブツをスッポリと埋め尽くす程の巨大さを持った土の大波なのだ。 「流石ですね。……『天駆の創神』」 不意に後ろから声がする。 少年が後ろを振り返るとそこには銀髪の長い髪を1つに止めた美しい女の人が立っていた。 「その名は止めてくれ。……その名は虐殺したからこそついた物だ」 「……しかし、アレは上からの命を実行しただけでアナタには何も罪はないわ」 やんわりとしかし透き通る綺麗な声で言葉を紡ぐ。 「……実行したのは俺だ。それにアレは俺のやり過ぎた。そうだろ?『魔誅の舞姫』(まちゅうのまいひめ)」 そう言い放つ少年の目は悲しく潤んでいた。 何かがあった。それだけは理解出来る。 「……それで、呼びに来たって事は準備が出来たのか?」 「……えぇ。よって此処の戦線は『烈火の闘神』(れっかのとうしん)に交代、アナタは神殿に向かって貰います」 女の人がやんわりとした物言いで伝える。 「……キョウスケか。なら安心だな」 「有り難い事を言ってくれるね」 「キョウスケ……。聞いてたのか?」 キョウスケと呼ばれた男は碧のショートヘアに碧の目をしていて、片手には本を携えている。 「うん。気をつけてね、それとこれは貸し1つね」 キョウスケはそう言うと、何処からか本を取り出し、読み始める。 「行きますよ?」 「あぁ」 寝転び本を読むキョウスケを尻目に神殿へと向かって行った。 もう会うことがないかもしれない『友』の姿を目に焼き付けながら――。 .
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