第一話

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玄関を挟んで、反対側の扉を開けるとそこは台所だ。 お湯を沸かしつつ、壁の棚に並ぶお茶の葉を吟味し、何種類かある香草茶の中から、少し甘い香りのするものを選び出す。それは気分が安らぐ効果があるものだった。 自分の気持ちを落ち着かせる為もあるが、依頼者の気持ちも考慮してある。 もの探しを依頼する者は、大概、心の隅に焦りと不安を抱えているからだ。 …二度と会えないかも…と それが身近で親しきものであればあるほど、不安は大きくなる。 初めから占いを頼ることは先ず無い。 できるだけの手段をこうじて、万策尽き果てた時に、最後の頼みの綱として、占いを頼ってくる場合がほとんどで、かなりの焦燥感を募らせていることが多い。 しかし、あの依頼人には表だって焦っている様子は見られない、むしろ落ち着き過ぎていた。 (ま、あえて押し隠すってのもあるけど…) 他人に醜態を晒すことを良しとしない性格の人なら、逆の態度を取ることはままあることだ。
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