七色の月

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叫ぶと同時に、黒い物はこちらへぶわりと向かってくる。 『母さん、父さん、早くあの木陰へ!』咲の声に導かれ、父母は一目散に木陰へ転がり込む。 大木の根元にしがみつき、『父さん、この時が来てしまいましたね』母が、涙ながらに話す。 『何とか、あの子とこのまま暮らせはしないものか…』父も、咲を見つめて言う。 『私は、名もなき村人。この命奪ってなんになる!』叫ぶ咲の額に、青い卍が浮かび上がる。 『それだ!卍の使者であるお前達!この世から、消滅させねば、我らが滅ぶ!逃がすものかぁ!』咲の体を一瞬の間に、黒い霧が纏わりつく。 『うぐっ…卍の使者とは…なんなんだ!私は何も知らない!』体を締め上げられる苦しさに耐えながら、黒い物体に突き刺さっている先程の鍬を引き抜き、力の限り振り上げると、咲の腕を黒い霧が押さえ、鍬を顔の前に向ける。 『良く見るがいい!青い使者よ!』 咲は、向けられた鍬に目をやると、自分の額に浮かぶ卍が見えた。 『これはっ!これは何なんだ!私は何も知らない!』 『知らないならば、知らぬうちに、成敗してくれるわ!』 鋭く光る黒い物体の目が、一層鋭さを増し、咲を締め上げる力が、強くなる。 『や…やめて…父さん…母さん…』 薄れてゆく意識の中で、母の声がする。 『咲!咲!お前には、秘めた力が授けられているのです!ぎゃぁぁぁっ』何かを話し掛けた母を、黒い霧が押さえつけ、みるみる飲み込んでゆく。 『やめろ!!』慌てて駆け寄る父をも、黒い霧は、容赦なく飲み込んでゆく。 咲は、母の言った言葉で、我に帰った。自分の眼下で 起こっている惨劇を見つめ、何もできない無力さに、涙を流す他になかった。 『私の命が欲しいのだな!ならば、くれてやる!その代わり、父母を離せ!』咲は叫んだ。 『離せばよいのだな?よかろう』 黒い霧が退くと、そこに横たわるのは、痛ましい父母の千切れた体だった。 『おのれ!!父母を返せ!!!!』咲の目に、涙はなく、青い炎が燃えている。 『返したであろう?お前も早く、父母の元へいくがよい!』 締め上げる力が、咲の体を砕く程強くなる。
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