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その日の夜、本当に徹斗は悠稀の部屋に来た。
「本当に来たのね、珍しい」
自分から言っておいて、徹斗はほとんど家に来る事がないのだ。
いつも泊まりに来る時は、悠稀が徹斗を誘いに行くから。
だから、今日はとても珍しい日だ。
「……約束したから」
力のない笑顔に、悠稀の表情も力がない。
心配そうに見つめているのに、徹斗は気付かないのか気付いているのに無視しているのか、全く悠稀の方を見ない。
「徹?」
少し拗ねたような悠稀の声。徹斗は、悠稀を見てへにゃんとした笑みを浮かべる。
「悠稀の部屋、矢神先輩の匂いがするよな」
驚いたように徹斗を凝視する悠稀に、徹斗は笑みを浮かべたままだ。
「苛々するんだ、矢神先輩を見てると」
自分と、そっくりだから。
声に出さずに呟いて、悠稀の様子を伺う。
悠稀は、いきなりの悠紫に関する話題に戸惑っていた。
徹斗は、しばらくそんな悠稀を観察する。
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