19

9/20
前へ
/373ページ
次へ
悠紫はその手の感触を、目を瞑りながらゆっくりと楽しんでいた。 悠紫にしたら、悠稀と共にいられるこの時間以外は、何もいらない。 徹斗も紘子も、大樹でさえもいらないのだ。 悠稀は、そんな事は全く気付いていないのだが。 「悠紫、本当に寝ちゃったのかしら」 突然、悠稀の声が悠紫の耳に入ってきた。 悠稀は、悠紫の顔を覗き込んでいるようで、悠紫の顔に影がかかる。 ゆっくりと悠紫が目を開けると、思っていた以上に悠稀の顔が近くにあり、少し驚いた。 「あら、起きてたの?」 目の前にある悠稀の顔が、柔らかい笑みを浮かべている。 二人でいる間に流れる、優しい時間。 悠稀にも悠紫にも、かけがえのない大切な時間なのだ。 「……悠稀」 悠紫の腕が、悠稀の白い顔に伸ばされる。 そっと頬に手をあてて、悠紫は小さく笑う。 「おはよう、悠稀」 「おはよう」 こつんと額を額に当てて、二人同時に微笑んだ。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加