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悠稀が居なくなって暇を持て余していた悠紫は、ただ海を眺めていた。
『綺麗、ですね』
ふと聞こえてきた声は、ずっと忘れられない人の声。
『……綺麗』
それに被さるように聞こえた消えそうな声は、今の自分に必要な少女のものだ。
「忘れられる、だろうか」
何故ここに悠稀を連れて来たのだろうか。
ここは、羽都との思い出の場所なのに。
少し海岸沿いを歩きながら、悠紫は物思いに耽る。
ここで、自分は羽都に告白したのだ。
彼女は、顔を真っ赤にして答えてくれた。
幸せな時間だった。なにもかも、上手くいっていたのに。
壊したのは、大樹と羽都の父親だった。
悠紫は一度首を振る。
「仕方なかったんだ」
そう、自分に言い聞かせるように言う。
今頃、羽都は幸せになっているだろう。自分とは叶わなかった未来を見いだせているのだろうか。
自分は、あの時から何も変わらない。
手に入れたいともがきながら、本当に欲しいものからは遠ざかる。
今の自分は、ちゃんと手をのばせているのか。
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