19

20/20
前へ
/373ページ
次へ
ふと、悠紫の耳に携帯の着信音が入ってきた。 それは、自分の携帯の着信音だ。 ディスプレイには、『大樹』の文字。 「……もしもし」 嫌々電話に出ると、珍しく焦ったような大樹の声が聞こえた。 『もしもし、悠紫か?お前、今どこで誰といる!?』 怒鳴るような声に、悠紫は顔をしかめる。 これは、確実に大樹は怒っているようだ。 しかも、多分その原因は悠紫のようだが、全く身に覚えがない。 「……今?今は悠稀と海にいる」 ぴたりと、電話の向こうで大樹が固まったのを感じる。 悠紫は一人、心の中で小さく笑う。 『田之上と?……いや、今はそれについては聞かないでやる』 珍しい。悠紫が悠稀と一緒にいる理由を聞かないなんて、大樹らしくない。 「どうした?」 もしかして、熱でもあるのだろうか。 本気で親友の心配をしている悠紫の表情が、大樹の言葉で凍り付く。 『羽都が、羽都が居なくなったんだ!』 危うく、携帯を海に落としそうになる。 「え?」 『悠紫様に会いに行く。探さないでっていう置き手紙があって。お前、会うなって言ったのになんで羽都に会ったんだよ!!』 上手く働かない頭の中で、ぼんやりと大樹が怒っている原因をやっと理解した。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加