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ふと、悠紫の耳に携帯の着信音が入ってきた。
それは、自分の携帯の着信音だ。
ディスプレイには、『大樹』の文字。
「……もしもし」
嫌々電話に出ると、珍しく焦ったような大樹の声が聞こえた。
『もしもし、悠紫か?お前、今どこで誰といる!?』
怒鳴るような声に、悠紫は顔をしかめる。
これは、確実に大樹は怒っているようだ。
しかも、多分その原因は悠紫のようだが、全く身に覚えがない。
「……今?今は悠稀と海にいる」
ぴたりと、電話の向こうで大樹が固まったのを感じる。
悠紫は一人、心の中で小さく笑う。
『田之上と?……いや、今はそれについては聞かないでやる』
珍しい。悠紫が悠稀と一緒にいる理由を聞かないなんて、大樹らしくない。
「どうした?」
もしかして、熱でもあるのだろうか。
本気で親友の心配をしている悠紫の表情が、大樹の言葉で凍り付く。
『羽都が、羽都が居なくなったんだ!』
危うく、携帯を海に落としそうになる。
「え?」
『悠紫様に会いに行く。探さないでっていう置き手紙があって。お前、会うなって言ったのになんで羽都に会ったんだよ!!』
上手く働かない頭の中で、ぼんやりと大樹が怒っている原因をやっと理解した。
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