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家に入ると同時に、悠稀は壁にもたれかかりながら座り込む。
一人になった瞬間、ただ考えるのは悠紫の事。
何故だろう。悠紫は多分、忘れられない少女の元に向かったのだろう。
ただ何となく、でも多分確実にだ。
「……馬鹿」
辛い。太い釘が胸に突き刺さっているように、心が痛む。
そのせいだろうか。ただ涙が溢れてきて、悠稀は声もなく泣いていた。
不意に、もたれ掛かっていた玄関の扉から、チャイムの音が鳴る。
びくりと体を揺らして、慌てて悠稀は涙を拭う。
「……はい?」
「悠稀」
聞こえてきた声に、悠稀は目を見開く。
扉を開けて、ただ無我夢中でその人の胸の中に飛び込んだ。
「うわっ!?」
飛び付いてきた悠稀を、驚きながらもなんとか抱き留めた徹斗は、安堵の息を漏らす。
「なん、で」
「ん?悠稀が泣いてた気がしたから、気になって」
来てよかった。そう笑いながら、悠稀の頭をよしよしと優しく撫でる。
どうして、徹斗はいつも分かってくれるのだろう。
どれだけ悠稀が傷付いても、彼は笑いながら慰めてくれる。
自分がどれだけ傷付いても、徹斗は悠稀を気遣ってくれるのだ。
いつもいつも、悠稀はそれに救われた。
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