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「遅いわ」
大樹と悠紫が屋上に着いてすぐ、紘子の言葉が響く。
「悪い、悠紫探すのに手間取って」
軽く頭を下げながら、大樹が当たり前のように紘子の側に腰を下ろす。
「……悠稀」
悠紫は、いつもより距離を取って悠稀の側に腰を下ろすと、悠稀を見据えて声をかけた。
「何か?悠紫先輩」
一見、何も変わらないように見える悠稀。
だが、声や言葉からはどこか距離が感じられる。
「後で、二人で話せるか?」
「後で?なんで今は駄目なんです?」
悠稀の刺のある言葉に戸惑いながら、悠紫は少し黙ってしまう。
「今話さないのなら、私には話す事なんてありません」
やっぱり、悠稀は悠紫に怒っているようだ。
この場合、今話しておかないと大変な事になりそうで、悠紫はちらっと紘子達を見る。
二人の険悪な雰囲気に気付いていたのか、紘子も大樹も不安げな表情。
「わかった、今話す」
そんな二人の顔から悠稀に視線を戻して、悠紫は真っ直ぐ悠稀の目を見つめる。
「悪かった。昨日おいていったりして」
「なんで何も言ってくれなかったんですか?」
悠稀は、隠す事をしなくなった。
声や表情から、完全に怒っているのがわかる。
「悪い」
だが、質問には答えられない。
答えれば、悠稀が傷付く事くらい分かっているから。
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