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「遙、やっぱり偽名なのね」
驚く事もせず、悠稀はただ呟いた。
悠稀の言葉に驚いた遙は、俯く。
「……ごめんなさい。本当の名前言ったら、もしかしたら悠稀さん知ってると思って」
お兄様と同じ制服だから。
俯きながら、遙ではなく羽都はぽつぽつ話し出す。
「私、どうしても見つかるわけにはいかなかったんです。だから偽名を使って」
「別にいいわよ、そんな事言わなくても」
冷たい言葉のようにも聞こえるが、悠稀は全く気にしていない。
だから冷たく聞こえるだけなのだ。
「恩を仇で返すような真似しとすみません」
ぺこりと頭を下げて、羽都は呟く。
悠紫はその間ずっと羽都を抱きしめているし、徹斗は悠稀と寄り添うように立っている。
悠紫と徹斗が睨み合う中、悠稀はただ無表情。
羽都はそれに耐え切れなくなったのか、小さく悠紫の腕を引く。
「悠紫、帰りましょう」
「どこに?」
悠紫の問い掛けに、また羽都は俯いてしまう。
今の羽都には、行く場所がないのだ。
かといって、悠稀の家に世話になるわけにはいかない。
「……どうしよう」
悠紫は小さく笑うと、羽都の頭に手をおいた。
「流石に、家には帰りたくないんだろ。なら、俺ん家来るか?」
そう悠紫が言うと同時に、羽都の表情が明るくなる。
「決まったのなら、私の家にいる意味ないわよね。早く悠紫と出ていってくれる?」
冷たい悠稀の言葉。
羽都とわかった瞬間、態度ががらりと変わる。
それが、羽都には辛かった。
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