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「ごめんなさい。ありがとうございました」
そう言うと、悠紫と羽都は出ていく。
その姿がいなくなる前に扉を閉めた悠稀を見て、徹斗は小さくため息をついた。
「どうした?」
「別になんでもないわ」
ふわりと笑う悠稀。それでも、その笑顔は少しぎこちない。
だから徹斗は、優しく悠稀を抱き寄せる。
「悠稀、部屋戻ろう」
「えぇ」
柔らかい笑みを浮かべながら、悠稀は徹斗の後を着いていく。
部屋に着くまで、悠稀は一度も後ろを振り向く事がなかった。
部屋に入るとすぐ、悠稀は崩れるようにベットにもたれ掛かる。
「疲れた」
それは多分、悠紫と話した事を指すのだろう。
「お疲れ様」
悠稀のすぐ側まで行くと、膝をついて頭を撫でる。
くすくす笑いながら、悠稀はされるがままだ。
「ありがとう、徹」
お礼を言われる事をした記憶はないのだが。
「いいえ」
それでもお礼を言われたから、徹斗は返事をする。
しばらく頭を撫で続けていたら、規則正しい寝息が聞こえてきた。
そっと覗き込むと、悠稀が安らかな寝顔をしている。
「寝ちゃった?」
問い掛けるが返事はない。完全に寝ているようだ。
じっと悠稀の寝顔を見つめて、徹斗は笑う。
長く見続けてきた寝顔だが、やはり歳を重ねる事に綺麗になっていく。
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