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その場で紘子と別れると、悠稀はすぐ徹斗を見る。
その瞳に責めるような色がない事を確認して、とりあえず徹斗は安心した。
あの事はばれていないようだ。
「どうしていきなりいなくなるの」
心配したんだから。
そう言われて、徹斗は曖昧な笑みを浮かべる。
「ごめん、ちょっと外に行きたくて」
半分本当だ。だから、徹斗はそう言う。
すると、悠稀は心底呆れたようなため息を吐く。
「なら、手紙を置いていくとかメールするとか、とりあえず心配しないように何かするのが礼儀でしょう」
悠稀の言っている事は正しいから、徹斗は何も言い返せない。
というより、悠稀の言う方法など全く考えつかなかっただけなのだが。
「これからは、気をつける」
「当たり前よ」
本気で心配してくれている悠稀に、ただただ徹斗は申し訳なかった。
こんなに心配をしてくれている悠稀に、嘘をつく事が。
やっぱり、あんな事をしなければよかった。
「徹、帰りましょう?」
それでも、悠稀の笑顔を見たらすぐにどうでもよくなってしまう。
差し出された手をとりながら、徹斗は笑った。
悠稀が悠紫と仲直りをした事は少し気になるが、やっぱりこうやって1番悠稀の側にいられるのは自分だ。
悠紫の側には羽都がいるのと同じように、悠稀の隣にずっといるのが自分になれるように。
「……がんばろう」
徹斗は小さく小さく呟いた。
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