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悠紫と羽都は、ずっと無言だった。
手を繋いでいるのに、悠紫の中で何故か羽都がとても遠く感じる。
こんなに近くにいるのに、心が離れているのか。
ただ、ぼんやりとそんな事を考えていた。
前の自分なら、そんな事考えられなかっただろうに。
何故今は、こんなに冷静なんだろう。
「悠紫?」
ふと、後ろから呼ばれて振り向いた。
その視線の先にいるのは、悠稀ではない。
自分のずっと会いたかった少女のはずなのに。
何故か心に穴が空いている感覚がする。
あぁ、自分は。
やっと気付いた言葉を口にする前に、羽都が口を開く。
「悠紫の家、ここ?」
そう言われてやっと気付いた。
自分達が、家のすぐ前まで来ていた事に。
「あぁ、入れば?」
「お邪魔します」
中に入る羽都を、すぐ二階に上がらせる。
それとほぼ同時に、何か小柄な影が悠紫に抱き着いた。
「おかえり、悠ちゃん!」
「いい加減へばり付くのやめてくれない?母さん」
呆れたような悠紫の声に、母親は口を尖らせる。
「いつも由佳里(ゆかり)ちゃんって呼んでって言ってるじゃない」
実年齢より若く見える由佳里は、精神年齢も少し幼い。
そのため、いつも我が子にべったりだ。
そんな母親を、悠紫が嫌がっている事にも気付かずに。
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