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「そういえば、誰か一緒に居なかった?」
「あぁ、友達。母さん、まだ出掛けないの?」
今日羽都を呼んだのは簡単だ。
子離れ出来ていない由佳里は、今日悠紫の父親と旅行に行く。
だから、今日からしばらくは匿う事が出来る。
「あら、もうこんな時間。義也(よしや)さんが待ってるわ!」
行ってきます、悠ちゃん。
頬にキスをひとつ落としてから、由佳里は満面の笑みを浮かべて出ていく。
「羽都、もういいぞ」
由佳里の姿がなくなったのを確認して、悠紫は上に呼び掛ける。
羽都はひょこりと、悠紫の部屋から顔を出した。
「悠紫のお姉様?」
「いや、母さんだ」
悠紫の言葉に、羽都は驚く。
「若いのね」
「あぁ。羽都、おいで」
優しい声で呼ばれて、羽都はゆっくり悠紫に近付いた。
「あのね、悠紫」
触れようと伸ばした手から逃れるように距離をとり、羽都の顔に苦笑が浮かぶ。
「私、最後に一度だけでいいから悠紫に会いたかったの」
最後。その言葉は、悠紫が1番聞きたくない言葉。
「最後って?」
「……婚約者の方、凄く優しいの。悠紫の事を忘れなくていいって言ってくださって。だから私は、悠紫を忘れるために会いたかった」
悠紫に会えば、あのきらきらした日々を思い出に出来る気がしたから。
「だから、会いにきた」
自分から悠紫を尋ねた訳ではないが、まぁ今はいいだろう。
そう微笑んだ羽都を見て、悠紫は胸が締め付けられた。
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