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羽都と過ごした毎日は、きらきらした宝物のような物だった。 それをなくす事が怖くて、羽都に言われた事を認めたくない。 「私、あの時会って核心したの。悠紫は恋をしているんだって」 表情を見てわかった。 あの時の悠紫はとても幸せそうで、悠紫に恋をしていた時の自分と同じ顔。 だから、彼を忘れようと決意した。 「ねぇ、どうしてそんなに嫌なの?」 「……消えていきそうだから」 羽都と別れてから、世界が全て灰色に見えた。 悠稀はそんな世界に、優しくて力強い色を与えてくれたんだ。 油絵のように鮮やかな世界は、とても居心地が良くて。 でも、駄目なんだ。 「俺の中にある羽都との思い出まで消えそうで」 柔らかい水彩画のような羽都との思い出。 それが、悠稀といる事で消えていきそうで。 悠紫にはそれが怖かった。 「気付いてた。俺が羽都に抱いていたのとは違う感情を、悠稀に持っている事くらい」 羽都といると和んだ。そして、ずっと側にいたいと思えた。 でも、悠稀は違う。 守りたいと思ったし、近くにいて胸が高鳴る感覚を初めて味わって。 彼女だけは無くしたくなくて、でも嫌われるのが怖かったから、彼女の心に踏み込めない。 踏み込める徹斗を羨ましいと感じて、自分が初めて嫉妬する事にも気付いた。 悠稀といたら、羽都といた時よりも沢山の感情が芽生える。 「恋をすれば、そうなるわよ。悠紫、怖がらないで」 誰だって、初めて何かする事や感じる事は怖い。 でも、それでいいんだ。 自分が信じたように歩いていけばいい。 「怯えてばかりじゃ、悠稀さんは気付かないわよ」 少し勇気を持って、悠稀に真っ向から向かわないと。
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