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「違う、そうじゃない」
今なら胸を張って言える。
自分は、多分初めて会った時から悠稀が好きだと。
悠紫の表情からそれを感じ取ったのか、紘子は呆れたように悠紫を見た。
「自覚するのが遅すぎただけですか」
「あぁ、だから俺はもう悩まない」
嫌われたくないから、悠稀に必要以上近付こうとはしなかった。
でも、もう悩まない。
嫌われたっていい。自分は自分の思うままに行動しよう。
「全く、仕方ないですね。そんな顔している人に悠稀に近付くななんて言えませんよ」
紘子の目の前にいる悠紫は、とても楽しそうで。
恋をしていた紘子には、馴染み深い顔。
そんな顔をしているのに、自分がその楽しみを奪うなんて事は嫌だ。
「あら、紘子に悠紫?珍しいわね」
ふと聞こえた声に、二人は振り向く。
後ろに立っていたのは、予想通り悠稀だった。
今日の悠稀は、珍しく真っ直ぐな黒髪を緩く巻いている。
ただそれだけなのに、冷たい雰囲気が柔らかくなった気がした。
「おはよう」
凄く自然にさりげなく、悠紫が悠稀の横を陣取る。
これには、紘子も少し驚いた。
多分あれが大樹だったなら、さりげなくしようとしすぎて逆に不自然になっていただろう。
「……凄いわ、やっぱり」
悠紫はいつも、誰よりも回りをよく見ていてさりげない気配りが出来る人だ。
悠紫の横で微笑んでいる少女は多分、気付いていないのだろう。
その、普段は行動に移される事のない気配りのほとんどが、悠稀のためなのだという事に。
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