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「ここ、露天風呂でしょ?早く入りたいわ」 にこにこ笑いながら畳に座る紘子。 そんな紘子の横に腰掛ける事もせず、悠稀は縁側に腰掛ける。 部屋から見える景色は、一面緑に囲まれているのだ。 だから、悠稀にとっては縁側が1番落ち着く。 「悠稀、こっち来たら?」 紘子の言葉にも首を振って、悠稀はただ外を見ていた。 初めてなのは、実は悠稀も一緒だ。 修学旅行などで旅行ならあるのだが、こんな風に時間も何も気にしなくていい旅行は、初めて。 だから、本当に羽都に感謝しなければ。 暖かい日差しを浴びながら、悠稀は小さく笑う。 「悠稀さん、一緒に出掛けません?」 ふと後ろを見ると、羽都と紘子が悠稀を見ている。 上着と鞄を持っているところを見たら、何が何でも出掛けるつもりだろう。 「拒否権なんてないじゃない」 そう言いながら立ち上がると、悠稀も上着を羽織る。 「どこ行くの?」 「少し歩くんですが、綺麗な川があるみたいなんです。そこに行きたくて」 この旅館の回りには、ひたすら自然が存在しているだけ。 人々の騒がしい声や車の音のような、都会特有の音はまるでしない。 するとしたら、水のせせらぎや風の音。 草木の奏でる優しい音だけだ。
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