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「紘子、少しいいかしら?」 そう声をかけられて、紘子は驚く。 みんなが寝静まったような静寂の中にいたから、いきなりの声に反応出来なかったのだ。 「なんだ、悠稀か。何?」 声をかけた人物が悠稀だという事を確認して、やっぱり安堵する。 こんな時間に声をかけてくるなんて、悠稀しかいないが。 「少し聞きたい事があるのよね。隣いいかしら?」 どうぞ、と譲ると悠稀は座り込み、空を見上げた。 つられて見上げた視界には、一面の星空が。 「綺麗ね」 悠稀の呟きに答える事も出来ず、紘子の脳裏に浮かぶのは都会の星空。 当たり前だ。あんな狭い星空に向かって何かを願っても、叶うはずがない。 苦笑を浮かべる紘子は、悲しそうだ。 「ねぇ、どうして上野先輩を避けるの?」 いきなりでてきた名前に、また驚く。 悠稀の真剣な眼差しから逃れるように視線をずらし、紘子はため息。 「叶わない恋なんて、しなかったらよかったわ」 何をしても、悠稀に勝てない。 そんな駄目な自分だから、恋をしても叶わない。 それならいっその事、恋心なんてなくなればいいのに。 紘子は小さく呟いた言葉を聞いて、自嘲する。 「……ねぇ、紘子」 黙っていた悠稀が、口を開く。 何を言われるのか分からないが、いい事ではないだろう。 そんな気持ちのまま、紘子は悠稀の言葉を待った。
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