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「辛いの?」 「……辛くないわ。ただ、苦しいの」 そう言いながら、悠稀の手は胸の辺りを鷲掴みにする。 心に傷があるからだろうか。 今の悠稀の表情は、自分と似ていた。 自分のそれよりも深刻なのだろうが、それでも似ている。 そんなに悠稀は、悠紫の事が好きなんだろう。 そこまで考えて、はたと気付く。 悠稀の表情が自分と似ているのなら、自分もそんなに大樹の事が好きなのだろうか。 有り得ない。自分は、あの恋心を押さえられている。 狂おしいくらい好きになっているのなら、自分はこんな平然としていられない。 でも、目の前にいる悠稀はいつも平然としている。 「悠稀、一つ聞きたいの」 「何?」 悠稀の質問の答え次第で、自分はどうなのか分かる。 狂おしいほど大樹に恋をしているのか、諦められるほど小さい恋なのか。 「貴方は、どうして冷静なの?そんなに悠紫先輩が好きじゃないから?」 凄く失礼な事を言っている自覚はある。 悠稀が、眉を寄せてこっちを見ている事にも、気付いている。 それでも、紘子はただ真っ直ぐ前を見て、悠稀の返事を待っているだけだ。 しばらくすると、隣から小さなため息。 ついたのは、当たり前だが悠稀だった。
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