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「違うわ、逆。悠紫の事は、狂おしいほどに好きよ」 心の中を読まれたような答えに、紘子の肩が揺れる。 「大好きだから、余計に冷静でいられるの。まぁ、私の場合はなんだけどね」 言っている意味はわからないが、なんとなく分かる。 やっぱり、悠稀と自分は一緒なのだ。 だから、自分は。 「やっぱり、大樹先輩が好きだ」 こんなに深く想ってるなんて、気付かなかったらよかったのに。 そうしたら、自分はまだ引き返せた。 でも、知ってしまった以上、引き返す事なんて出来ない。 押さえ込んでいた恋心が、膨れていく。 「紘子、自信を持って。貴方は十分、魅力的なんだから」 悠稀の笑顔に励まされる。 「そう、ね。やっぱり無理に忘れようなんて、出来ないんだわ」 すっかり冷え切った体を抱きしめるようにして、紘子は立ち上がる。 「ごめんなさい、悠稀。帰りましょうって言ってたのに」 自分がこんなに冷えているのだから、悠稀もそうだろう。 なのに、彼女はただ笑う。 「気にしないで。貴方が元に戻ってくれてよかったわ」 明日には帰るのだ。 一日だけの旅行だが、紘子には大切な思い出になるだろう。 また差し出された悠稀の手を、今度はちゃんと掴み返した。
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