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玄関からなかなか戻ってくる事のない悠稀を心配してか、柑奈が顔を出す。 「悠稀~?誰が……」 だが、柑奈の言葉は途中で途切れた。 目の前には、放心状態の悠稀と一人の男性。 「ただいま、悠稀。それに柑奈も」 「い、斎(いつき)さん」 そこに立っていたのは、悠稀の父親である斎だ。 柑奈は目を見開いたまま、斎を見る。 ありえない。彼は、ここにはいないはずなのに。 「なんだ?父親が帰ってきたのに、悠稀はおかえりも言ってくれないのか?」 柔和な笑みを浮かべたまま、斎が玄関から家に入ろうとする。 「入ってこないで!」 いきなり、放心状態の悠稀が大声を出す。 歩みを止めた斎から逃れるように数歩下がりながら、悠稀は苦しそうに喘ぎながら叫ぶ。 「なんであんたがここにいるの!あんたは、刑務所にいるはずなのに!!」 「……悠稀?」 悠稀の叫ぶ声を聞いたのか、後ろから徹斗が顔を出す。 その瞬間、柔和な斎の顔が豹変した。 「貴様、まだ悠稀のそばにいるのか!」 まさに般若のような顔で怒鳴り付ける。 悠稀の目が恐怖に見開かれ、徹斗は怯えたように下がる。 覚えてる。斎は、怖い。 徹斗の中で、斎は怖い存在だという事になっているのだ。 中学の時、斎に殺されかけてから。 斎が一歩、徹斗の方へと歩みを進めた。
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