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「……帰って」 震える足で、悠稀が真っ直ぐ斎を見る。 守るように、徹斗の前に立ちながら。 「何故?悠稀、そんなやつを庇うな」 少し困ったような表情を浮かべながら、斎は進む。 「こっちにおいで、悠稀」 そっと伸ばされた手に、悠稀は金縛りにあったかのように動けない。 「帰ってください!」 いきなりの柑奈の叫び声に、斎は止まる。 柑奈は強い眼差しで、自分を守るように腕を組んでいた。 「あなたは、もう。田之上とは関係ありませんよ。藤堂斎さん」 柑奈の強気な態度にも、斎は余裕の笑み。 「あの、離婚届けの事か?あんなもの、俺が書くとでも?」 鞄から取り出した物は、随分前に渡したはずの離婚届け。 それには、柑奈のところしか書かれてない。 斎はそれを見せるように振ると、真っ二つに引き裂いた。 「なにを!?」 柑奈の叫びと、斎の笑い事が響く。 「これで、離婚はなしだ。藤堂柑奈さん」 震え出す柑奈と、呆然と立ちすくむ悠稀。 徹斗だけは、まだ少し冷静だった。 「警察呼びますよ?斎さん」 携帯をちらつかせて、一か八かの賭けにでる。 だが、斎は徹斗の戦略を全て分かってるような表情。 「仕方ない、今日は出ていくよ」 そう言って玄関の扉を開ける。 ほっとした表情の悠稀達を振り向く事もしないで、斎は呟く。 「また、な」 ぱたん、と扉が閉まって斎の笑い声が途切れた。
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