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斎が居なくなった後、残ったのは放心状態の二人と、徹斗だ。 柑奈が、ゆっくりと首だけで徹斗を見る。 それに気付いて、徹斗も視線を柑奈へ向けた。 「徹斗君」 柑奈がぼんやりとした表情のまま、小さく呟く。 「はい?」 律儀に返事をして、柑奈の言葉を待つ。 「悠稀を連れて、ちょっと出掛けてもらえる?疲れたの」 完全に疲れきっている柑奈。 そんな姿が痛々しい。 別れたとばかり思っていたのに、斎はまだ離婚届けを出していなかったのだ。 一度にいろいろな事が起こりすぎたせいか、柑奈にいつもの元気がない。 これは、放っておいた方がいいだろう。 徹斗は一度頷いて、近くにいた悠稀の手を引っ張る。 悠稀はただ、無言で着いてくるだけだ。 玄関を出て、徹斗の家まで歩く。 悠稀はそれでも、全く反応しない。 それほどまでに、悠稀の中ではトラウマになっているのだろう。 自分の大好きだった父が、自分の大切な人を殺しかけたのだから。 悠稀の中で、その出来事が深い深い傷を作っているのだ。
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