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帰っている間、悠稀と悠紫は無言のままだった。
だが、それは気まずい沈黙ではなく、二人にとっては居心地のいいものだった。
「矢神先輩、今日も家に寄ります?」
そう、悠稀が悠紫を誘う。
悠紫は一人暮らしなので、悠稀がそれを知ってからたびたび悠紫を家に連れ込んでいた。
「……あぁ、今日はちょっと無理だ。大樹に呼ばれている」
「そう、ですか」
悠稀が少し拗ねたような声を出すが、悠紫はまるで気にしない。
「また今度、な」
ふわりと、悠紫特有の柔らかい笑み。
悠稀の心を軽くする、魔法のような微笑みだった。
そんな会話をしている間に、悠稀の家のすぐ側まで来てしまった。
「じゃあ、またな」
そう言って頭を撫でる悠紫に、悠稀は笑う。
「えぇ。…また、明日」
そして、悠稀は家へ入って行った。
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