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悠稀とて、ずっと共にいる徹斗を家に誘いたいと前々から思っていた。
しかし出来ない。
家にはほとんどの確率で斎がいるから。
悠稀は答えに困ったため、柑奈に相談した。
「そうねぇ、あの人がいたら難しいけど、いない時ならいいわよ」
「ほんとに!?」
柑奈の答えに悠稀は喜んだ。
これでやっと、徹斗を家に呼べる。
もしかしたら、悠稀はこの時徹斗に恋をしていたのではないか。
気付かれないほど小さな恋心。
それは、これから起こる出来事で粉々に砕け散ったのだ。
「徹斗!」
「悠稀、どうしたの?」
振り向いた徹斗のさらさらした黒髪が揺れる。
その柔らかくて少し長めの漆黒の髪が揺れるのが、悠稀は好きだ。
「父さんがいなかったら、家に来ていいって!」
「そうか、やっと行ける」
二人で笑いあう、あの時。
「なんだ、まだ出水は悠稀ん家行った事ないの?」
悠稀の後ろから出てきた紘子と水綺。
「うるさいなぁ、もうすぐ行けるからいいだろ」
拗ねる徹斗とからかう紘子。それを見て笑う悠稀。
この時が、1番幸せだったのかも知れない。
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