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悠紫と紘子が買い物に行くため、今日は悠稀と大樹の二人で帰っている。 いつもは煩いくらい喧しい大樹だが、今日はなぜか全く話さない。 首を傾げるだけの悠稀だったが、流石に話さない時間が長すぎて嫌になる。 「上野先輩?」 「なぁ、田之上」 悠稀の問い掛けにも上の空で、大樹は呟く。 「はい?」 「……俺とさ、付き合ってくれねぇ?」 いきなり言われた言葉に、悠稀は目を見開く。 なんでこう、身近な人から告白ばかりされるのか。 だが、何かが違う。 大樹は、徹斗の時と違うのだ。 そう、照れたり悠稀を真っ直ぐ見たりしていない。 ぼんやりと、どこか遠くを見ている。 「好きでもない人に告白なんて、感心しませんよ」 悠稀の鋭い眼差しを受けて、大樹の顔に苦笑いが浮かぶ。 「そうだな、田之上には悪いと思う」 でも、と大樹は自分の手を握りしめる。 「辛いんだよ、なにもかもが。苦しいんだよ、見てるだけで!」 大樹の切ない表情に、悠稀の胸が締め付けられた。
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