2034人が本棚に入れています
本棚に追加
誰の事を言っているのかくらい、自分にも分かる。
今日、自分だって大樹と同じ気持ちを味わったから。
でも、違う。
こんな事をしても、お互いが傷付くだけなのに。
それなのに。
「……わかりました」
なんで、受けたんだろう。
悠稀がまさか受けるとは思わなかったようで。
大樹が目を見開く。
「なんで?」
「自分から言ったのに、なんではないですよ」
くすくす笑いながら、悠稀が歩き出す。
慌てて着いてくる大樹を見る事もなく、悠稀は続けた。
「ただ、私も辛いんです。いろんな事がありすぎて、逃げたくなった」
自分の気持ちに正直になって、誰かを傷付けるのなら。
「私は、自分を傷付ける方がましです」
ただ、上野先輩を傷付ける事になるかも。
苦笑とともに言われた言葉に、大樹は穏やか過ぎる表情で頷く。
「俺は、自分が傷付くのくらい分かってる。言い出したのはこっちだ、田之上は悪くない」
頭に手を置かれて、泣きそうになる。
すぐ近くにそう言ってくれる人がいるのが、とても嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!