29

3/9
前へ
/373ページ
次へ
「あ~、悪いんだけど、俺悠稀と二人で食べるわ」 大樹の困ったような言葉が、答えだった。 「付き合ってるの?」 悠稀に問い掛けたが、俯いたままで何も言わない。 何も言わない事は肯定だと、痛いくらい分かってる。 「……悠稀」 悠紫の切ない声や紘子の表情が、悠稀の胸を締め付けた。 「行こう、大樹」 逃げるように去っていく悠稀を見て、紘子は目を閉じる。 見たくないというような紘子を見て、悠紫は頭に手を置く。 怯えたように体を揺らし、悠紫を恐る恐る見上げた。 「何が起こってるのかなんて、今の俺らには分からないだろ。目を逸らすな」 悠紫はどうして、笑っていられるんだろう。 どうして悠稀は、悠紫ではなく大樹を選んだんだろう。 「もう、何がなんだか分からないわ」 ため息混じりに吐き捨てて、紘子は悠紫の腕を掴んで屋上に向かった。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加