29

4/9
前へ
/373ページ
次へ
大樹の腕を掴んで歩いている悠稀は、ずっと俯いたまま。 今、彼女は自分を傷付けているのだろうか。 何があったのかなんて聞く事はしない。 目の前にいるこの少女は、詮索されるのが嫌いだろうから。 「上野先輩」 「……大樹でいいって。呼んでないのばれたらどうする気?」 目を細めて言う大樹の言葉に、悠稀はただ黙る。 「だって、実際は付き合ってないし」 「そうだな、悪かった。そんなに付き合ってるって思うのが嫌なら、べたべたしてる友達だとでも思えよ」 その方が、だいぶ楽になるだろう。 大樹の言葉に小さく笑みを浮かべ、悠稀は頷く。 「そうね、そうするわ。ありがとう、大樹」 やっと、自然体の悠稀に戻った。 いろいろと、悩んでいたのだろう。 彼女は悩みを内へ内へ溜める癖があるようだ。 それは、いずれ自分の心を壊す事になるのに。 「なんか悩みあるなら、俺は聞くぞ?」 優しく頭を撫でてやると、悠稀は気持ち良さそうに目を細めて笑う。 「平気。まだ、ね」 悲しそうな笑顔の意味を、まだ大樹は知らない。 無理に聞かずに、ゆっくり心を開いてもらえばいいだろう。 そう思って、大樹も悠稀に笑い返す。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加