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大樹の腕を掴んで歩いている悠稀は、ずっと俯いたまま。
今、彼女は自分を傷付けているのだろうか。
何があったのかなんて聞く事はしない。
目の前にいるこの少女は、詮索されるのが嫌いだろうから。
「上野先輩」
「……大樹でいいって。呼んでないのばれたらどうする気?」
目を細めて言う大樹の言葉に、悠稀はただ黙る。
「だって、実際は付き合ってないし」
「そうだな、悪かった。そんなに付き合ってるって思うのが嫌なら、べたべたしてる友達だとでも思えよ」
その方が、だいぶ楽になるだろう。
大樹の言葉に小さく笑みを浮かべ、悠稀は頷く。
「そうね、そうするわ。ありがとう、大樹」
やっと、自然体の悠稀に戻った。
いろいろと、悩んでいたのだろう。
彼女は悩みを内へ内へ溜める癖があるようだ。
それは、いずれ自分の心を壊す事になるのに。
「なんか悩みあるなら、俺は聞くぞ?」
優しく頭を撫でてやると、悠稀は気持ち良さそうに目を細めて笑う。
「平気。まだ、ね」
悲しそうな笑顔の意味を、まだ大樹は知らない。
無理に聞かずに、ゆっくり心を開いてもらえばいいだろう。
そう思って、大樹も悠稀に笑い返す。
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