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大樹には、気になっていた事があった。 昨日から、毎日といっていいほど悠稀を待っていた徹斗が、来ていないのだ。 それが、今の悠稀の元気のなさに関係しているのだろうか。 中庭でご飯を食べながら、ぼんやり考える。 悠稀はご飯中だというのに、携帯をちらちらと眺めていた。 昨日から見られるその行動。 「どうした?」 「……なんでもないわ」 愛想笑いを浮かべながら、悠稀は携帯を手放す。 それでも、悠稀はずっと携帯を気にしている。 昨日から徹斗にメールや電話をしているのに、返ってこない。 それが、悠稀の不安を加速させる。 会ってどうするのかと聞かれると、悠稀は答えられない。 でも、会いたいのだ。 自分が傷付けた。その事だけが、ずっと胸に蟠っている。 一言、ごめんと言いたかった。 無意識にため息をついて、大樹が自分を見ている事に気付く。 心配なんかかけたくないから、無理に笑う。 何も言わないが、大樹は薄々気付いているのではないだろうか。 悠紫や紘子より、もしかしたら大樹の方が人の気持ちに敏感なのかも。 ぼんやり、そう考えていた。
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