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結局、また悠稀はあまり眠れなかった。 ため息をつきながら、慣れない化粧で隈を消す。 暗い顔をしている悠稀を心配する柑奈を笑顔で振り切って、家を出る。 ただ、学校に行く足が嫌に重い。 悠紫や紘子に会うのが、嫌だ。 特に紘子は大樹が好きなのに。 「おはよう、悠稀」 後ろからかけられた事に、悠稀は固まる。 そっと振り向いた先には、いつもと変わらない笑み。 「なに固まってるのよ、変な悠稀」 紘子が悠稀の横に並んできて、くすくす笑われる。 反応のない悠稀に眉を寄せ、紘子は顔を覗き込む。 「どうしたの?」 「ごめん、紘子」 いきなりの謝罪に、紘子は首を傾げる。 「なにがよ」 そう言うと、悠稀の瞳が不安気に揺れた。 「上野先輩と、付き合って」 あぁ、とようやく納得する。 それから、紘子はばれないように苦笑を浮かべた。
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