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紘子は首を傾げた。 どうしてだろう。 あの日、悠稀の元気がなかった日から。 徹斗の姿を見る事がなくなった。 いつもは忠犬のように門の前で待っていたのに。 今は、姿が全く見えない。 もしかしたら、悠稀の元気がない事といきなり大樹と付き合うようになった事に、関係あるのではないか。 ぼんやり考えていても、意味がないのだが。 紘子の横には悠紫が。 その数歩前には、楽しそうに歩く悠稀と大樹。 時々戯れながら笑う二人を、見ていたくない。 ふと悠紫に視線を向けて、紘子は驚く。 悠紫は、目を反らす事なく二人を見ていた。 酷く悲しそうな表情のまま、彼は真っ直ぐ見ている。 「矢神先輩」 無言で視線を向けてくる悠紫に、笑いかける。 「辛いですよね?」 返事はないけど、分かってる。 悠紫は、辛いだろう。 悠稀に元気になってほしくて、紘子と二人でプレゼントの買い出しに行ったのに。 その次の日から、悠稀は手の届かない場所に行ってしまったのだ。
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