31

8/9
前へ
/373ページ
次へ
悠稀は、今まであった事を全て話した。 中学の時に自分の父が起こした事件。 その日に失った恋心と、誓った思い。 いつの間にか気付いてしまった、徹斗の心。 告白された時、全てが知られてしまった事。 話している途中から溢れてきた涙を拭う事もせず、悠稀は次から次へと言葉を吐き出す。 大樹は、何も言わずにずっと聞き続けている。 「そうか」 話し終わった後、大樹はただ一言。 そっと悠稀の頭に手を当てて、優しく笑っている。 「よくがんばった」 その温もりに、悠稀はただ救われた。 そう言って笑ってくれるだけでよかったのだ。 自分の心の重荷を、誰かに分かってほしくて。 でも、拒絶される事が怖くて誰にも言えなかった。 まさか、大樹に話す事になるなんて思いもしなかった。 「泣きたかったら声を出して泣けばいい。俺の前で、我慢なんてしなくていいんだ」 優しい言葉が響く。 ぽろぽろ零れる涙を見て、大樹は悠稀を自分の胸に引き寄せた。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2034人が本棚に入れています
本棚に追加