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顔を見ないようにという大樹の配慮が、悠稀には嬉しかった。 彼は、どこまでも優しい人だ。 だから、これ以上傷付ける事はしたくない。 明日にでも、大樹とは別れよう。 涙を流しながら、悠稀はぼんやりした意識の中で強く心に誓った。 不意に、大樹の腕の中にいた悠稀が重くなる。 「……悠稀?」 呼びかけても返事がない。 もしかして、と覗き込むと案の定。 悠稀は穏やかな寝息をたてていた。 「はぁ」 悠稀を支えながら、大樹はため息。 やっと、本当の意味で悠稀に許してもらえたのだ。 自然と顔がにやけてくる。 「……あ」 そういえば、自分は悠稀の家を知らない。 悠稀の家が分からなかったら、寝ている彼女を送れない。 「どうするか」 そう呟いた時に、頭に浮かんだ人物。 少し気が引けるが仕方ない。 そう言い聞かせて、大樹は携帯を手にとった。
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