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大樹に似合わない、柔らかい気配だ。 寝起きで頭が動かない悠稀は、諦めてベットに横になる。 ベットに身を沈めて、悠稀はまた波のように押し寄せてくる眠気を感じた。 寝てもいいだろうか。 瞼を閉じた悠稀の耳が、足音を聞く。 慌てる風もなく、ただ淡々と歩く音。 完全に、大樹ではないだろう。 彼なら、こんなゆっくり歩かない。 だからだろうか。 悠稀は警戒してしまう。 自分は誰か分からない人の部屋にいて、今この部屋の主がこっちに来ているのだ。 警戒しない方がおかしいだろう。 でも、足音が近寄ってくる度に警戒が解ける。 扉の前で止まったと思ったら、静かな部屋にノックの音が響く。 「……どうぞ」 そっぽを向いたまま、少し掠れた声でそう言う。 「起きてたのか」 耳に心地いい声が聞こえて、悠稀は視線を扉に向けた。
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