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そんな子供じみたところが、どうしようもなく愛しい。 でも、駄目だ。 今はそんな事を思ってはいけない。 「悠紫、好きよ」 本人に言う事が出来ないのなら、寝てる時に。 これくらいなら、こんな自分にも許されるだろうか。 徹斗の想いを踏みにじり、辛くなったら他の人へ逃げた最低な自分に。 他の人を好きでい続けるのは許されるだろうか。 サンドイッチに手を伸ばし、一口頬張る。 「……美味しい」 瞳に溜まる涙を拭う事はしない。したくない。 覚えておかなくてはいけないから。 自分の感じる胸の痛みなんて、徹斗の感じた痛みより何倍もましだろう。 忘れるな、忘れたくない。 大事な人を傷付ける事がどれだけ痛いのかを。 「ごちそうさまでした」 全部食べ終わると、悠稀は悠紫を起こさないようにベッドから出る。 そのまま扉に向かうと、小さく笑った。 「さよなら。おやすみなさい、悠紫」 ぱたん、と扉の閉まる音が、寝ている悠紫だけの部屋に響いた。
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