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悠紫に目で合図をすると、彼はゆっくりと斎の上から退く。 紘子をそっと遠ざけると、悠稀は斎の前に座る。 「私はもう、貴方の知ってる悠稀じゃない。弱いままかもしれないけど、それでも私は必死で今を生きてる。邪魔しないで」 彼の心の中にいる悠稀は、小さい時の悠稀のままで。 自分は成長しているのに、斎はそれを受け入れない。 そんな風に逃げてばかりいたら、またこういう事が起こってしまうだろう。 だから。 「だからね、もう会いに来ないで。母さんも開放してあげて」 いくら斎がもがいても、もう無くしたものは戻れない。 自分も柑奈も、斎の元に戻るつもりは少しもないから。 「……悠稀」 悲しそうな斎。 多分彼は、愛し方を間違えただけ。 本当は誰よりも真っ直ぐな愛情を持っている事くらい、分かってるから。 「どこにいても、何をしてても。例えこの先一生会えなくても」 ふわりと、花が咲いたように笑う。 「貴方は私の父親だから」 ぽろぽろと流れる涙を拭う事もせず、斎は自分の娘を抱きしめた。
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