始まりの地

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――何だか今日はやけに鼻がひくつく。 彼はふと、風が吹く度に鼻腔を擽る異臭に気付いて眉をひそめた。その表情のまま辺りの闇に目を凝らしてみるけれど何も無い。それもその筈である。彼が今居るのは呪われた大地として名高い西の荒野なのだから、彼以外に存在する物と言えば、切り立った巨大な岩か枯れかけた老木ぐらいだった。 常ならば何の息吹も感じない、地平線まで荒れ果てた荒野の中、出会うとしたら何と出会うのだろう。暫しの静止ののち肩の力を抜いた彼は、他の生命にほんの少しだけ焦がれていた。この忌まわしい大地にたった一人取り残されてしまった自分は、何故今も生きているのだろう。食糧どころか水すらなく、ひたすら乾燥したこの呪われた地で、どうして生き長らえている。 否、ひょっとしたらそう思考する自分はもう思いだけの塊になってしまっていて、肉体はとっくの昔に朽ちてしまったのかもしれない。 と、彼の思考を笑うようにまた風が吹いた。また、あの匂いが鼻を擽った。 .
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