3/19
2308人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
『ねぇ。お茶に付き合ってくれない?』 いつまでも、大声で俺の事を説明している女を押し退け、声をかけた。 『…はい!』 いや。 お前には、言っていない。 近くに止めた車までの道のり。 俺のファンだと言った香織は、当たり前のように助手席のドアを開けた。 …うるさい。 そして、やたらに触ってくるな。 『そんなに心配しなくても、ちゃんと帰すよ?』 バックミラー越しに見えた、窓の外を心配そうに眺める“里緒”と名乗った女。 『そんなつもりじゃ…』 慌てて前を向いた里緒は、そのまま俯いてしまった。 もしかして、お前も面倒くさい女? まぁ、ヒマ潰しになればいいや。 そんな気持ちでバックミラーへの視線を外した。 車内に響くのは、香織の声と適当な俺の相づち。 行き慣れたバーへの、片道10分は。 耳障りな声のオンステージだった。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!