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『ねぇ。お茶に付き合ってくれない?』
いつまでも、大声で俺の事を説明している女を押し退け、声をかけた。
『…はい!』
いや。
お前には、言っていない。
近くに止めた車までの道のり。
俺のファンだと言った香織は、当たり前のように助手席のドアを開けた。
…うるさい。
そして、やたらに触ってくるな。
『そんなに心配しなくても、ちゃんと帰すよ?』
バックミラー越しに見えた、窓の外を心配そうに眺める“里緒”と名乗った女。
『そんなつもりじゃ…』
慌てて前を向いた里緒は、そのまま俯いてしまった。
もしかして、お前も面倒くさい女?
まぁ、ヒマ潰しになればいいや。
そんな気持ちでバックミラーへの視線を外した。
車内に響くのは、香織の声と適当な俺の相づち。
行き慣れたバーへの、片道10分は。
耳障りな声のオンステージだった。
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