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聞いているのかいないのか。誰もこっちを向こうともしない。所詮はヘルメット。相手にした俺の負けだな。
「確かにスゴいよそれ」
久しぶりに声を聞いた。席を立とうとした俺の前に、学生か…?若い男が座っている。
「あなたのチーム、僕大好きです。ああいう戦い方もあるんだって、参考になってます」
むず痒い。誉められた。しかし、なかなか話の分かる奴だな。
「…その気になりゃ、100点とれるさ」
「なんか怒ってます?馴れ馴れしかったですか?」
訝しげな顔をする男に、俺は、いやいや、という手振りを交え、否定する。この仮想空間で、まともに人の声を聞くのは久しぶりだったんで、正直戸惑った。
「ああ、すいません。申し遅れました。僕、最強打撃会で会長やってます、RYOといいます」
「RYO君ね。俺はキッシー。何処にも属してない。フリーの身だな。でも若そうなのに団体のリーダーってすごいねぇ。」
「2代目なんですよ。先代が大きくしたのに乗っかってるだけです。メンバーのみんなに支えていただいてるんですよ」
暫くRYO君と話し込んだ。最強打撃会とは、ホームランに魅せられた人たちが集う団体で、結構ほかの団体と掛け持ちでやっている人も多いらしい。
ホームラン重視か。俺のチームとは正反対だな。
「…それでね、打撃会のスレのレスがこの間1000越えしたんです。これまだ僕の中で考えてるだけなんですけど、記念リーグを開催しようと思ってるんです。」
「へえ、リーグ戦」
「はい。複数の特殊リーグを構成して、各々の優勝者が真の最強を競うんです。リーグは今のところ、打撃中心リーグ、純正チームリーグ、皆が違った選手を使う分配リーグ。この3つを考えています。色んな戦い方をする人が集まって欲しいんですよ」
かわいい顔して、すんげえデカイ事考えるんだな。壮大過ぎるプランだ。しかし、その打撃リーグってやつ、面白そうだな…
「誰か手伝う人、いるの?」
「まだ誰にも言ってません。キッシーさんに言ったのが初めてです。」
俺は少し考えた。ここでもし手を貸せば、恐らく運営までしていく事になるだろう。正直、それはどうかと思う。そこまで俺に時間があるかどうか。
しかし、それ以上にこのRYOという男。不思議な雰囲気をもっている。若くして団体の代表であるというのも頷ける。
何とかしてやりたいな―
「わかった。やろう。面白そうだ」
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