第1章 プロローグ

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夜景で有名な街の西の外れに、その坂道はある。 西側が崖になっていて、ガードレール沿いの歩道からの眺めが良い坂だ。 そして、その坂を登って行くと、崖の下から盛り上がってくる山と坂がぶつかるところでガードレールが切れて、白い二階建ての建物が見えてくる。 その建物には南側と西側にテラスが張り出し、その上には白い布の日除けが出て柔らかな日陰を作っている。 「珈琲屋」 それ自体がその白い店の名前。 だから、カフェ珈琲屋。 常連さんの中では、「カフェY's(ワイズ)」と呼ぶ人たちもいる。 でも、ワイズってバンドの名前なんだけど……と思うが、呼び方は人の自由よね。 店の北側はもう山になってるので、坂道の1軒上の家からは西側の景色はない。 張り出したテラスからの、いきなり広がる景色はうちの特権。 眼下に狭く広がる街の夜景と海の景色が素晴らしいところ。 坂道から店を見ると、木製の階段を数段登ったところが入り口で、木枠にガラスがはめられた明るい感じのドアがある。 そのドアの横の白い壁に木の看板を下げて「カフェ珈琲屋」と書いてある。 入り口のドアを開けると、まずは、エントランス。 左側には大きなガラス窓と今時珍しい公衆電話。 右側も大きなガラス窓と傘立て。 そして、2mほど先に店内へのドア。 やっぱり木枠にガラスで明るさを演出。 そのドアを開けると、目の前のレジの向こうにカウンター6席が西側に延びている。 その左手には4人掛けのテーブルが3つ。 大きく1枚ガラスの窓を3つ取っていて、もちろん、眺めと明るい雰囲気は最高。 窓の位置は、テーブル席の4人とも景色を眺めることができるように考えてある。 隣のテーブルとの境辺りが幅40cmくらいのちょっとした壁で、小さな絵が飾ってある。 春のここからの景色の色彩の違う風景画が2枚。 天気が悪くて、景色が見えない時のサービス。 夜は、坂から見ると光があふれるお店。 それ自体がこの場所を夜景の一部にしている。 住宅街の手前にぽつんとあるから、余計に暖かさを振りまいている。 ここを通る人は、ついそのドアを開けてしまうに違いない。 521105bb-df86-4f1f-bc4c-993122c77108
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