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夜の11時を過ぎた頃、山元姉妹はタクシーで帰っていった。
由梨と二人で片付けた後、私は珈琲を淹れた。
カウンターに座ってぼーっとしていた由梨が、珈琲を受け取ると顔を軽く外へ振って合図した。
「OK」
私たちは珈琲を持って、もう一度テラスへ出た。
ドアから2つ目の、一番夜景の見やすいテーブルに座った。
「美味し♪」
由梨が一口飲んで言った。
私はにこっと笑顔で答える。
「今日も夜景がきれいだね~」
由梨が、両手にあごを乗せて言う。
今夜の夜景はドーム状に光を空に広げながら瞬いている。
「そうだね」
私は、椅子の背もたれに深く寄りかかり、腕を頭の後ろで組んで胸を突き出しながら、星を見た。
夜景の光に邪魔されて、そんなに多くはない。
ただ、こうしてると、自分が空中に浮かんでいるような錯覚を覚え、気持ちいいのだ。
「今日は会ったの?」
由梨が両手にあごを乗せたまま、ちょっと振り向き気味に私に視線を向けて言った。
「うん」
何も言わなくても、由梨にはバレてしまう。
「そっか。良かったね~」
由梨が夜景に視線を戻した。
「まあ、どうだろ?」
「なんで?」
由梨は夜景を見たまま言った。
「初めて来た日さ……」
由梨がちらっと見た。
「彼女となんかあったみたい」
「そっか。彼女がいたか~」
「うん」
私は珈琲を口にした。
「それにしては、笑顔で帰ってきたじゃない?」
「まあね」
由梨はふうんという感じで口元に笑みを浮かべた。
なんとなくわかったのだろう。
そう。
この出会いがなんとなくうれしかったのだ。
彼女がいる以上、彼氏にはならない、いや、しない相手だろう。
ただ、彼女がいようがいまいが、この出会いが気持ちよかった。
人との出会いは恋だけじゃない。
何もしなくても来週の木曜日には会える。
きっと今、私はいい顔していると思う。
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