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「誘わなかったの?」
声の方を振り返ると、由梨がいつの間にか傍にいた。
「いや、フラれた」
私は笑顔で答える。
「そっか~」
私の表情を見て、由梨も笑顔で言った。
フラれたことより、会えたことの方が嬉しい。
他のファンと少し新曲のことやら話をした後、既に飲んでいた山元姉妹のところに行った。
「オトコだ……」
「うん、オトコだ」
幸代ちゃんが言うと、雪奈ちゃんが相づちを打った。
「えっと……」
私が苦笑すると、幸代ちゃんがずいっと身を乗り出してきた。
「結衣さん、新しいオトコですね!」
顔が赤い上に、目の焦点が合ってない……
「幸代ちゃん、もう酔ってるのかな?」
「はい!酔ってます」
横から身を乗り出してきた雪奈ちゃんが言った。
こっちも顔が赤い……
なんだなんだ?
テーブルにあるお酒を見ると、一見普通のウィスキーだが……
「あ、これシングルカスクだ~」
ボトルを手にした由梨が言った。
有名なウイスキーのメーカーが出してるやつで、ブレンドせずに一つの樽の原酒だけを瓶詰めしていて度数が62度くらいある。
樽ごとに個性が違うので、通には人気らしい。
う~ん、普通のウィスキーのつもりで飲んだな…
「オレのおごりだ。飲め」
私がボトルを見ていると、ちょうど後ろを通りがかったオーナーがそう言って去っていった。
「ども」
私はすたっと手を上げて言った。
「結衣さん!新しいオトコ、おめでとうございます!」
山元姉妹がハモりながら言った。
「あのね、彼は彼女いるから」
私は苦笑しながら言う。
「う゛っ!結衣さん、失恋速すぎですぅ~」
雪奈ちゃんが眼をうるうるさせながら言った。
スパコーン!
「失恋言うな-!」
幸代ちゃんがスリッパで雪奈ちゃんの頭をはたいた。
「あの、それどっから…?」
「結衣さんはオトコを振る方だー!」
幸代ちゃんは人の話を聞かずに、今度は扇子を両手に持って踊っている。
「えっと、それもどこから……?」
「この二人、こんなに酒癖悪かったっけ~?あ、美味し~」
由梨はシングルカスクをちびりと飲みながら他人事のように言った。
「二人とも見かけはドレスの似合う、いいオンナなんだけどねぇ」
私もほっといて飲むことにした。
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