―狂気―

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結局、鼎、お紺、栄次郎、若旦那とその場にいた野次馬一名を加え番所に赴いた。 旗本の子息である鼎は、本来なら番所などで取り調べを受ける謂れはない。だが、事が事だけに後を慮って同道を承服したのだ。 番所の内部は、被疑者に使う板の間と、番人が詰める畳敷きの都合六畳ほどを襖で真半分に仕切っただけの安普請で、表の腰障子を開けて直ぐの土間には捕縛に使うさす又や、御用提灯。消火出役の際に用いる纏や鳶口などが壁に沿って要領よく整理されていた。 畳の部屋には鼎が、板の間にその他の者が案内され、奉行所から同心が来る旨告げられて後かなり時が経っていた。 「遅ぇな……」 すっかり冷めた茶を啜り、火鉢に片手をかざしながら栄次郎が不満顔を隠さない。 「まぁ、もう少し待とうよ」 お紺が、熱の籠らぬ声で応じたが、どの道待つより他ない。 それよりお紺の気掛かりは、犬に噛まれた女児の安否であった。 きっと無事であってほしい、そう心で手を合わせるお紺。 「それにしても、あの野郎ふてぇことしやがって、許せねぇ」 栄次郎は若旦那に聞こえよがしの声を上げた。 だが、若旦那は栄次郎を少し睨んだだけで、挑発に乗る気配を見せない。
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