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だが銀八は、こんな店なぞ潰れてしまえばいいと、今度は家にも寄りつかなくなってしまった。
母親は、店のこと息子のこと亭主の看病にと気苦労を重ねた結果ついに倒れ、病床を夫と並べていたが、秋口にかかる頃だったろうか、深夜大川に身を投げ、その命を絶ってしまった。
悲嘆にくれる父親もぷいっと家を出て行ったっきり行方知れずとなり、店も潰れ、頼るあてもなくなった銀八は、以前賭場で知り合った征吉親分の世話になることを決め、征吉の女房お勝が営んでいた旅籠を根城に様々な悪行に手を染めていったのである。
お紺は、これらの話を当の銀八と、その周辺から遊郭時代寝物語に聞いたのだ。
なるほど聞いた当初は同情もしたが、よくよく考えてみれば全て自業自得、銀八の短慮が原因ではないか。
銀八などよりもっと悲惨な境涯に呪われながら、一夜の温もりを求めに廓へ足を向ける客にこそお紺は同情を禁じ得なかった。
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