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時は元禄から宝永に改元されて初めての師走を迎える頃、春日鼎春日鼎は朝からひどく機嫌を損ねていた。
鼎の怒りの訳は、春日家が懇意にしていた植木職人吉次郎の伜二助が、先日カラスの巣ごと庭木を切り倒した咎で番所に引き立てられ、昨日斬首の刑に処せられたところにあった。
「何故だ、くそっ、……何で……、何でカラス如きで」
先程来から空を斬る鼎。
手には樫の木剣が握られている。
ブッ……、ブッ……と、ごく短い風切音。
大上段に構え、右足を一歩踏み出しては木刀を振る。
厚い雲を蹴破って地上へ注ぐ冬にしては強い陽光が、上半身脱いで晒した鼎の、うっすら汗をかき、赤銅色に灼けた肌に光沢を与えていた。
親友であった。
幼くして出会った時から二人には、身分の差を越えて友情が芽吹いていた。
長じて、二助が吉次郎の跡継ぎとなるべく修業の道に入ると多忙の身となり、めったに会えなくなっても、たまに顔を会わせれば、好きな女の話や些細な失敗話などを肴に酒を酌み交わした。
いい奴だった。
そんな奴が何故死なねばならぬのか?
運が悪かったと言えばそれまでだが、命と引き換えるほどの過ちでもあるまいに。
無性に腹が立つ。かけがえのない友を死に追いやった法もそうだが、それ以上に、その法をつくった“お上”への憎しみが募る。
無論口に出せることではない。口に出せない分、心に深く内向し、より強固な憎悪となって深刻に鼎を支配していた。
友の無念を想い、鼎は一心に木刀を振り続けた。
あの義侠心に厚い吉次郎の薫陶よろしく、二助も志の高い男であった。
また、御仏に帰依する篤信の徒であり、毎朝欠かすことなく唱える南妙法蓮華経のお題目は鼎の耳朶に未だ残っている。
鼎にとって二助は兄のような存在であったが、彼は何かにつけて鼎を立てた。
二人で歩く時さえ、後に従う二助の心配りが苦しく、「横に並んでくれよ」と請い、その時は肩を並べる二助だったが、気がつけばまた後にいる。
二助はそんな男だった。
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